このサイトは、医療関係者の方を対象に、国内の母子感染に関する診断と治療および研究結果等について情報提供することを目的に作成したものです。
一般の方への情報提供を目的としたものではありませんので、ご了承ください。
皆様より寄せられるお問い合わせにお答えいたします。
A. サイトメガロウイルス(CMV)は、世界中のいたるところにいる、ありふれたウイルスです。健康な子どもや大人が感染しても全く問題ないのですが、妊婦さんが感染した場合、妊婦さんにほとんど症状がなくても、胎盤を通じて赤ちゃんにまでウイルスが感染することがあります。こうしてウイルスに感染して生まれてきた状態を、「先天性サイトメガロウイルス感染症」と呼びます。
A. 生まれつきCMVに感染した赤ちゃんでは、約15〜20%に脳神経や聴力障がいなどが生じることがあります。こうした先天性CMV感染症を「症候性先天性CMV感染症」と呼び、難聴、てんかん、発達遅延などの症状が出現してきます。一方で、感染した赤ちゃんに何も症状が出ないこともあります(「無症候性先天性CMV感染症」と呼びます)。また、出生時に症状がなくても、成長するにつれて難聴や発達障がいなどの症状が出る場合もあります。成長するにつれて難聴が出てくることを「遅発性難聴」と言います。
(参照)母子感染の予防と治療に関する研究班HP(https://cmvtoxo.umin.jp/index.html)
A. 先天性CMV感染症の遅発性難聴に対して、抗CMV薬であるバルガンシクロビル経口液剤の効果があった症例の報告があります。しかし、現在のところ、世界中で健康保険適用の下で行える一般的治療ではありません。
A. 新しい薬が世に出るまでには、長い年月をかけてその効果や安全性(副作用)を調べる必要があります。はじめに製薬会社などの研究室で、薬の候補となる物質やその特徴などが詳しく調べられます。次に、薬として期待される候補が選ばれます。次に、動物で『薬の候補』の効果と安全性を確認します。動物で効果と安全性が確認できた場合には、少数の健康な方や患者さんにその候補を使用していただいて、実際のヒトに対する安全性が確認されます。その後、多くの患者さんで効果があるのか、安全に使用できるのかを確認します。このようなヒトでの効果や安全性を確認する試験を「臨床試験」といい、特に国(厚生労働省)に医薬品として認めてもらうために行われる試験を「治験」、治験で使用するお薬を「治験薬」といいます。
次に、治験で受ける治療と通常の治療とで異なる点をご説明します。通常の治療の目的は、健康状態を改善することを目的としていますが、治験はそれ以外に厚生労働省に薬として認めてもらうための情報を収集する目的もあります。このため、治験に参加中は、治験薬の効果や安全性を詳しく調べるため、通常の診察よりも検査の項目や回数が増えたり、通常の診療では行わないような検査をしたり、研究的な側面もありますので、これらの点を十分に理解したうえで治験に参加させるかどうかよく考えてお決めください。また、今回の治験には、対照薬(偽薬)が設定されます。
治験を行い、新しい薬を世に出すためには多くの患者さんの協力が必要です。現在、私たちが病気やけがをしたときに使用している薬もすべて、長い年月をかけて治験を積み重ねることによって創り出されたものであり、これはひとえに治験に参加していただいた方々のご協力のたまものです。
A. 治験には、製薬企業が主体となって行う治験と、医師自らが計画を立てて実施する治験(医師主導治験)がありますが、本治験は「医師主導治験」です。本治験は、全国19施設(予定)の小児科と耳鼻咽喉科の専門家が集まり、監督機関である医薬品医療機器総合機構と相談の上で、国立研究開発法人日本医療研究開発機構からの研究開発費を申請したところ、有用かつ適切な研究であることが認められて実施することになりました。
私たちは、2020年に症候性先天性CMV感染症に対して医師主導治験を行い、令和5年(2023年)3月に抗CMV薬であるバルガンシクロビル経口液剤(バリキサ®ドライシロップ5000mg)が世界で初めて症候性先天性CMV感染症の適応追加の薬事承認を得ることができました。現在、健康保険適用の下で、全国の医療施設で治療が受けられるようになりました。
今回は、国内で先天性CMV感染症のお子さんが遅発性難聴を発症した場合に、安全で有効な治療法を開発する目的で医師主導治験を計画しました。
A. 先天性CMV感染症の遅発性難聴のお子さんが、本治験にエントリーできます。今回は、対照薬(偽薬)に比べ、先天性CMV感染児の遅発性難聴に被験薬(実薬)が効果があるのか、そして、どのような症例に薬効が見られるかを探索的に評価します。そのため、対照薬(偽薬)に割り当てられることがあります。その場合でも、治療開始後6週間時点で聴力が悪化している場合は、被験薬(実薬)に切り替えるような設計になっています。