国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)成育疾患克服等総合研究事業 ― BIRTHDAY

サイトメガロウイルス、トキソプラズマ等の母子感染の予防と診療に関する研究班

トキソプラズマ母子感染と出生児障害リスク

トキソプラズマはTORCH症候群の一つで、胎児感染 (先天性感染) を起こすと、胎児・新生児期より水頭症、脳内石灰化、小頭症、網脈絡膜炎、小眼球症、精神神経・運動障害、肝脾腫などを起こす。遅発型として、成人までに痙攣、網脈絡膜炎、精神・神経・運動障害などを起こすことがある。

小腸粘膜などから母体内に侵入したトキソプラズマ原虫は、マクロファージを含む白血球に侵入し血流に乗って全身へ広がる。妊婦では、まず胎盤に感染して、その後胎児脳や肝臓などの実質臓器に感染する。胎盤はトキソプラズマ感染が生じやすい組織であり、シストを形成し持続感染する。しかし、胎盤の感染防御機構によって、胎児感染はある程度阻止される。トキソプラズマ胎盤感染と胎盤機能低下から胎児発育不全を起こしたケースも報告されている1)。母体感染から胎児感染の成立まで、数か月かかるとされる。
胎児感染のリスクは母体が感染した時期によって異なり、妊娠初期の感染では胎児感染率は低いが症状は重度である。妊娠経過とともに胎児感染率は増加し、妊娠末期では60〜70%に達するが2),3)、症状は軽度や不顕性が多くなる (表1)。トキソプラズマの母子感染と出生児障害リスクを図1に示す。生後数年して眼病変が確認され、先天性トキソプラズマ症と診断されるケースもある。

表1:感染時期による胎児感染率と症状

日本の妊婦のトキソプラズマ抗体保有率は2〜10%である4)。地域差があり、札幌 3.6%(2004〜2005年)5)、埼玉 3.3%(2003~2014年)、千葉 4.0%(1992~1999年)6)、東京 6.0%(1992~1999年)6)、神戸3.5%(2013〜2016年)、山口 5.3%(2000〜2004年)7)、長崎 2.1%(2014〜2015年)8)、宮崎 10.3%(1997〜2004年)9)と報告されている。
日本の妊婦の初感染率(約0.13%)と出生数から、年間1,000〜10,000人の女性が妊娠中に初感染し、遅発型の発症例を含め年間 130〜1,300人の先天性トキソプラズマ症児が出生すると推計されていた1)。2011年の報告では、妊婦抗体スクリーニングと治療を行った状況下で、先天性トキソプラズマ感染児の発生は、10,000分娩あたり1.26人と推計されている10)。2019年の報告でも、妊娠第1三半期の初感染率は0.13%で、感染児の発生は10,000分娩あたり0.9人(北海道)〜2.6人(宮崎県)と推計されている11)

図1:トキソプラズマの母子感染と出生児障害リスク

引用文献

1)矢野明彦. 日本におけるトキソプラズマ症. 矢野明彦編. 九州大学出版会, 福岡: 25-67, 2007.
2)Hohlfeld P, Daffos F, Costa JM, et al. Prenatal diagnosis of congenital toxoplasmosis with a polymerase-chain-reaction test on amniotic fluid. N Engl J Med. 331: 695-9, 1994.
3)Berrebi A, Kobuch WE, Bessieres MH, et al. Termination of pregnancy for maternal toxoplasmosis. Lancet. 344: 36-9, 1994.
4)野田俊一,池田智明,池ノ上克. 妊娠とトキソプラズマ症. 産婦人科治療. 88: 161-6, 2004.
5)西川 鑑,両町美和,北島義盛ほか. 北海道における 妊婦のトキソプラズマ抗体保有率. 北海道産科婦人科学会会誌. 51: 20-2, 2007.
6)布施養善, 多田裕, 間崎和夫, 他.妊婦における抗トキソプラズマ抗体保有率.日本新生児学会雑誌 37: 479-85, 2001.
7)讃井 裕美, 佐世 正勝, 田村 功ほか. 当院でのトキソプラズマ感染の動向. 日本産科婦人科学会中国四国合同地方部会雑誌. 55: 24-7, 2006.
8)藤井知行(研究代表者).母子感染の実態把握及び検査・治療に関する研究.厚生労働科学研究費補助金(成育疾患克服等次世代育成基盤研究事業)平成25~27年度総括研究報告書, pp11, 2016.
9)Sakikawa M, Noda S, Hanaoka M, et al. Anti-Toxoplasma Anitibody Prevalence, Primary Infection Rate, and Risk Factors in a Study of Toxoplasmosis in 4,466 Pregnant Women. Clin Vaccine Immunol. 19: 365-7, 2012.
10)Yamada H, Nishikawa A, Yamamoto T, et al. Prospective study of congenital tosoplasmosis screening with use of IgG avidity and multiplex nested PCR methods. J Clin Microbiol 49: 2552-6, 2011.
11)Yamada H, Tanimura K, Deguchi M, et al. A cohort study of maternal screening for congenital Toxoplasma gondii infection: 12 years' experience. J Infect Chemother 25: 427-30, 2019.

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