国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)成育疾患克服等総合研究事業 ― BIRTHDAY

サイトメガロウイルス、トキソプラズマ等の母子感染の予防と診療に関する研究班

出生児の検査と対応

先天性感染症児の臨床症状

先天性トキソプラズマ症の3主徴は網脈絡膜炎、脳内石灰化、水頭症であるが、臨床的にそろうことは希である。そのほかに、小頭症、血小板減少による点状出血、貧血などがある1)。これらはサイトメガロウイルスやジカウイルスによる先天性感染症でも同様の症状を呈することがあるため、出生時の臨床症状だけで診断することは困難である。精神運動発達遅延、てんかん、視力障害などの神経学的・眼科的後遺症につながることがある。先天性トキソプラズマ症の4〜27%に網脈絡膜炎を引き起こし、永続的な片側視力障害を残すことがヨーロッパから報告されている2)

診断方法と問題点

AまたはBが確認されれば、先天性感染があると診断する3)

A. 生後12か月以上まで持続するトキソプラズマIgG陽性(母体からの移行抗体は、通常生後6〜12か月で陰性化)

B. 生後12か月未満の場合、以下の項目のうち1つ以上満たす。
  1. 児血のトキソプラズマIgGが母親の抗体価と比べて高値で持続する、または上昇する時
  2. 児血のトキソプラズマIgMが陽性の時
  3. 児血、尿、または髄液からトキソプラズマDNAがPCR検査で検出される時
  4. トキソプラズマ初感染の母親から出生した児で、児血のトキソプラズマIgGが陽性でかつ、先天性トキソプラズマ症の臨床症状を有する時

日本では、これらの他の診断根拠として、トキソプラズマIgG値(EIA法)の臍帯血/分娩時母体血比が4以上も用いられることがある4)
新生児血のトキソプラズマIgM陽性は先天性感染児の1/4程度であること、新生児血でトキソプラズマIgMが陰性であってもトキソプラズマDNAが陽性の症例や、新生児血でトキソプラズマIgMとトキソプラズマDNAがともに陰性だが、羊水でDNA陽性で、かつ出生時に頭蓋内石灰化が見つかり先天性トキソプラズマ症と診断された日本の症例の報告5)6)があるので留意する。
トキソプラズマDNA検査は、国内で体外診断薬としての認可はなく保険収載はされていない。トキソプラズマDNA検査は標準化されておらず、検査機関や測定方法によって感度は異なる。したがって、検査機関によってトキソプラズマDNA検査の結果が異なることが最近報告されているため、出生児のPCR検査結果の判断には慎重を要する。出生児血液および羊水におけるDNA陽性で先天性感染と診断された後、1歳時に血液でトキソプラズマIgG陰性の症例も報告されている7)

検査と診断手順

出生児の検査と診断手順を図1に示す。

*羊水や新生児検体のPCR検査で偽陽性となる症例があることから、生後12か月時にトキソプラズマIgG検査を行い陽性であることを確認する。

図1:出生児の検査と診断手順のフローチャート

 *児の状態や母体検査でローリスクと判断される場合(例えばAvidity高値)などで省略が可能。
**生後1か月までに眼科に紹介し実施する。

表1:フォローアップの手順

出生時に異常がなくても、1歳までは神経学的所見、血清学的検査(トキソプラズマIgG・IgM)、頭部画像検査、眼底検査のフォローが必要である(表1)。トキソプラズマIgGの陰性化を確認できた時点で、「感染なし」と判断しフォローアップを終了することができる。母体からの移行抗体の半減期は約30日である。
1歳以降の管理指針については確立されていないが、感染児は眼底検査を含めて長期的なフォローアップが成長期まで必要である。

感染児の治療方針

治療の目的は、重度の神経学的・眼科的合併症の発症の抑制にある。出生時に先天性トキソプラズマ症の症状を有する場合は治療を行う。慢性期になって治療を開始してもすでに症状が固定化し、治療効果が期待できないため、無症候性感染の場合でも治療を行うことが推奨される。
先天性トキソプラズマ感染の治療法はまだ確立されておらず、いずれの薬剤もトキソプラズマ感染に対する保険適用はない。したがって、治療は同意を取得して行う。下に治療法の例を記す。

保険適用はないが、ホリナート(ロイコボリン)、プレドニゾロンは国内で入手は可能である。しかし、ピリメタミン(ダラプリム)とスルファジアジンは、日本では製造販売されていない。熱帯病治療薬研究班に参加する薬剤使用機関(https://www.nettai.org/)において、ピリメタミンとスルファジアジンの有効性と安全性を評価する臨床研究に参加し治療を受けることができる。
スルファジアジンを新生児期に投与する場合、核黄疸の発症のリスクが上がるため、血中ビリルビン/アルブミン比やアンバウンドビリルビンをモニタリングしながら、投与することが望ましい。

薬剤を確保できる場合、錠剤なので粉砕して投与する。
症候性感染症
下記の薬剤を症状に応じて適宜使用する。
1) ダラプリム錠(25mg) 1回1mg/kg 1日2回 最初の2日間、以後1回1mg/kg 1日1回(連日)6か月間、1回1mg/kg 1日1回(週3回)6か月間
2) スルファジアジン錠(500mg) 1回50mg/kg 1日2回 12か月間
3) ロイコボリン錠(5mg) 1回5mg 1日2回(週3回)ダラプリム錠中止後1週まで続ける
4) プレドニン錠(5mg) 1回0.5mg/kg 1日2回 髄液蛋白上昇(>1g/dL)または網脈絡膜炎の活動性が高く視力予後が危惧される場合、これらの所見が改善されるまで続ける

海外における感染児の治療方針

米国小児科学会 3)

症状の有無に関わらず、ピリメタミンとスルファジアジンを使用することが初期治療として推奨される。スルファジアジンの使用の際は、活性型葉酸製剤(ホリナートカルシウム)の補給が必要である。治療期間はしばしば1年になる。しかしながら、最適な投与量や投与期間は最終的には確立しておらず、専門医や症例経験のある医師に相談して決定すべきである。ある専門家は、軽症例ではピリメタミン・スルファジアジン・葉酸とスピラマイシンを1か月毎に交互に7〜12か月、重症例ではピリメタミンとスルファジアジンを12か月間投与するとしている。

引用文献

1)Swisher CN, Boyer K, McLeod R. Congenital toxoplasmosis. The Toxoplasmosis Study Group. Semin Pediatr Neurol 1: 4-25, 1994.
2)Cook AJC, Gilbert RE, Buffolano W, et al. Sources of toxoplasma infection in pregnant women: European multicentre case-control study. BMJ. 321: 142-7, 2000.
3)American Academy of Pediatrics:Toxoplasma gondii Infection, RED BOOK 2015 Report of the Committee on Infectious Diseases 30th Edition. p.787-96, 2014.
4)小島俊行,丹羽直也,菅野素子ほか. 最新版-新生児の感染症 トキソプラズマ. 小児科診療. 72: 1673-9, 2009.
5)Yamada H, Nishikawa A, Yamamoto T, et al. Prospective study of congenital tosoplasmosis screening with use of IgG avidity and multiplex nested PCR methods. J Clin Microbiol 49: 2552-6, 2011.
6)Nishikawa A, Yamada H, Yamamoto T, et al. A case of congenital toxoplasmosis whose mother demonstrated serum low IgG avidity and positive tests for multiplex-nested PCR in the amniotic fluid. J Obstet Gynaecol Res. 35: 372-8, 2009.
7)Yamada H, Tanimura K, Deguchi M, et al. A cohort study of maternal screening for congenital Toxoplasma gondii infection: 12 years' experience. J Infect Chemother 25: 427-30, 2019.

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