国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)成育疾患克服等総合研究事業 ― BIRTHDAY

サイトメガロウイルス、トキソプラズマ等の母子感染の予防と診療に関する研究班

妊婦のトキソプラズマ抗体スクリーニング

妊婦の抗体スクリーニングについて、産婦人科診療ガイドライン(2017年、2023年)では「妊娠初期に必要に応じて行う検査」(推奨レベル C)とされていたが、産婦人科診療ガイドライン(2026年)においては、推奨レベルを高めることが検討されている(2026年2月時点)。胎児トキソプラズマ感染を予防し治療する母体治療法も認知されており、実際には多くの妊婦取扱施設で抗体スクリーニングが実施されている。2011 年を対象期間とした全国アンケート調査では、48.5%の施設が妊婦抗体スクリーニングを実施していた1),2)。これまでは、トキソプラズマ IgG とIgM、ELISA法を用いたIgG avidity検査の結果に基づいて、初感染の診断がなされてきた。2024年10月には、IgG avidity(CLIA法)の測定が体外診断薬(Toxo-IgG Avidity・アボット、アボットジャパン合同会社)として承認され、2026年2月に保険収載された。トキソプラズマIgG陽性の妊婦には従来行われてきたトキソプラズマIgMに基づく初感染の判定の後に、体外診断薬を用いたIgG avidity 測定を保険診療として行うことが可能となった。保険診療の適応対象は、原則として「トキソプラズマIgM 抗体陽性でスピラマイシンを服用している妊娠満16週未満の妊婦において」1回の実施が認められており、「医学的な必要性から、本検査を2回算定する場合又は妊娠満16週以降の妊婦に対して当該検査を算定する場合は、その理由を診療報酬明細書の摘要欄に記載すること」となっている。トキソプラズマIgGが陽性の妊婦において、妊娠初期の時点でIgG avidity(CLIA法)が高値であった場合には感染時期は4か月(16週)以上前であった可能性が極めて高いと判断されるため、4か月(16週)未満の初感染の可能性は否定的である。

2018年7月に「先天性トキソプラズマ症の発症抑制」を効能・効果として、スピラマイシンの製造販売が承認された。同年8月からは、トキソプラズマ初感染が疑われる妊婦に保険適用として、スピラマイシンが投与できるようになった。従来から用いられてきたアセチルスピラマイシンは、トキソプラズマ感染に対する効能・効果や保険適用はないため、現在は保険適用のあるスピラマイシンの投与が推奨される。また、保険適用の治療薬が使用できるようになったため、「トキソプラズマ初感染が疑われる妊婦」とは、トキソプラズマIgG陽性の妊婦で、1)問診等で感染を疑う症状があったか、あるいは2)血清検査でIgM陽性の場合には、初感染が疑われると判断されてスピラマイシン投与が推奨される。その後、さらにIgG avidityが低値ないしグレイゾーンであることが確認された場合、初感染が強く疑われると判断してスピラマイシンの投与を継続する。
一般的に免疫機能が正常のヒトにおいては、再感染や再活性化により寄生虫血症は生じないとされる。そのため、IgG avidity高値の妊婦に対してのスピラマイシン内服の必要性は乏しい。ただし、IgG avidityの測定が妊娠中期・末期に行われて高値であった場合には、妊娠初期の初感染は否定できないことに留意が必要である。

妊婦抗体スクリーニングの目的は、以下の2つである。

  1. トキソプラズマIgG陰性妊婦に対して感染予防の教育と啓発を行う。
  2. 初感染の可能性が高い妊婦を抽出し、妊娠中の治療、新生児の精査・診断、フォローアップを行う。

トキソプラズマIgGとトキソプラズマIgMやIgG avidityを用いたスクリーニング法(図1参照)

妊娠初期にトキソプラズマIgGを測定し、IgG陰性者に妊娠中の初感染予防のための教育と啓発を行う。抗体陰性妊婦で感染が疑われた時、ないし陰性妊婦全例で妊娠後期にIgGを再測定し、妊娠中にIgGが陽性化した初感染妊婦を同定する。IgG陽転化からの先天性感染率は29%と推計されている3)。IgG陽転化妊婦からの出生児は、精査・診断、フォローアップおよび治療を行う。

抗トキソプラズマIgG陽性の場合には、速やかに抗トキソプラズマIgMを行い、IgM陽性の場合には、まず初感染疑いと判断して胎児超音波断層検査などの精査とスピラマイシン内服治療を開始する。感染が疑われる妊婦を早く同定するためIgMを先に、もしくはIgGとIgMを同時に測定してもよい。ただし、IgM陽性妊婦のうち、およそ7割はpersistent IgMないし偽陽性で、本当の妊娠中初感染ではない4)。そのため、IgM陽性妊婦に対してはさらにIgG avidity検査を行い、avidity高値であれば妊娠中の初感染リスクは低いという判断を行うことが可能である。Toxo-IgG Avidity・アボットは2026年2月に保険適用となったが、保険算定要件として「トキソプラズマIgM 抗体陽性でスピラマイシンを服用している妊娠満16週未満の妊婦」となっていることに留意する。
Toxo-IgG Avidity・アボット(以下ではこの検査系で測定されたIgG avidityを「%Avi」と示す)を用いた国内臨床試験では、初感染から4か月(16週)以上経過しているかどうかを判定しており(%Avi低値<50%を陽性、%Avi高値≧60%を陰性)、検査精度について判定保留(グレイゾーン:50%≦%Avi<60%)の例を除外した場合の結果は感度100%(6/6)、特異度79.6%(86/108)、陽性的中率21.4%(6/28)、陰性的中率100%(86/86)であった。ただし、判定保留(グレイゾーン:50%≦%Avi<60%)を%Avi低値とともに陽性に含めて扱った場合には、感度100%(6/6)、特異度65.2%(86/132)、陽性的中率11.5%(6/52)、陰性的中率100%(86/86)となる。

また、海外における同検査系を用いた研究5) において、感染後の4か月未満の血清では86検体中84例が%Avi低値で2例が判定保留、感染後4か月以上の血清では137例が%Avi高値、31例が判定保留、21例が%Avi低値という結果であり、判定保留を除外せず解析した場合は感度100%(84/84)、特異度72.5%(137/185)で、国内試験と同等の結果が示されている。つまり、%Avi高値(60%以上)であれば、4か月(16週)未満の初感染の可能性はほとんど否定できる。一方で低値(%Avi 50%未満)である場合には、感染時期は4か月(16週)未満である可能性が否定できない。また、4か月(16週)未満の初感染の妊婦の一部にはグレイゾーン(%Avi 50%以上60%未満)の判定を示す場合もあることが報告されており5) 、そのためグレイゾーンの結果に対しては低値と同等の対応で臨むことが適切である。
また、IgG Avidityの結果の判定において感染時期を推定する基準となるcut off値は、IgG avidityの測定方法によって異なることを理解しておく必要がある。ELISA法による検査系を用いた前向きコホート研究では、先天性トキソプラズマ感染を起こした妊婦7人全員が IgG avidity<30%であり6) 、PCR 法で羊水中にトキソプラズマ DNA 陽性であった9症例全員が、IgG avidity<30%であったとの報告がある7)

IgM値、IgG値の変化、IgG avidity値、生肉や飲料水以外の水の摂取、生の貝の摂取、洗浄不十分な野菜や果物の摂取、猫の排泄物との接触、土いじり、砂場遊び、海外旅行(中南米・中欧・アフリカ・中東・東南アジア)など感染リスク行動の有無、リンパ節腫脹や発熱など症状の有無、および胎児の超音波所見を総合的に評価して決める。スピラマイシンは感染後早期の内服で有効とされているため、IgG陽性確認後はできるだけ速やかにIgMやIgG avidityを測定し、IgMが陽性あるいはIgG avidity低値(Toxo-IgG Avidity・アボットの判定によるグレイゾーンは低値と同等に扱う)が確認されれば、ただちに投与を開始する。スピラマイシンによる治療開始後は、1)妊娠中に感染を疑う臨床症状がある場合、あるいは2)IgM陽性かつIgG avidity低値(グレイゾーンを含む)の場合には分娩まで治療を継続する。

血清検査の結果から妊婦の不安が強い場合など、羊水中トキソプラズマDNAをPCR検査する選択肢がある。しかし、羊水トキソプラズマDNAのPCR検査は標準化されておらず、先天性感染に対して偽陽性および偽陰性があることに留意する。トキソプラズマは細胞内寄生感染を起こすため、羊水PCR陰性でも胎児感染を完全には否定できない。診断感度は妊娠17〜21週にかけて上昇する8)。2016年のメタアナリシスでは、羊水トキソプラズマDNAのPCR検査の感度は83%、特異度は98.3%とされる7)。羊水PCR検査が陰性であっても、初感染疑いの妊婦はスピラマイシンによる治療の継続が望ましい。

胎内治療について

羊水PCR陽性例などで、胎児感染と診断したケースの胎児治療では、スピラマイシンは効果がない。胎児治療として、妊娠16週〜27週の間はピリメタミン+スルファジアジン+ロイコボリン(P/S)による治療を行う。ピリメタミンとスルファジアジンは、日本では製造販売されていない。原則として移送が困難な場合を除いて、熱帯病治療薬研究班が指定する薬剤使用機関(https://www.nettai.org/)で治療を受けることになる。治療が長引く場合は、個人輸入が必要となることもある。
ピリメタミンは催奇形性が報告されており、ピリメタミンとスルファジアジンによる治療は妊娠16週以降とする。妊娠28週以降のスルファジアジンの投与については新生児核黄疸のリスクがあるため、ピリメタミン、スピラマイシンに変更する。一方、欧米では胎児感染例に対しては、ピリメタミンとスルファジアジンが分娩まで使用される。胎児感染が確定的な症例などで、妊娠28週以降もピリメタミンとスルファジアジンで治療する場合は、核黄疸リスクに留意しながら同意を得て行う。核黄疸リスクを回避するため、胎児感染が確定的な症例では妊娠28週以降分娩までピリメタミン+ロイコボリンで治療する場合もある。

図1:妊娠初期抗体スクリーニングプロトコールの参考例

引用文献

1)山田秀人(研究代表者).先天性サイトメガロウイルス感染症対策のための妊婦教育の効果の検討, 妊婦・新生児スクリーニング体制の構築及び感染新生児の発症リスク同定に関する研究. 厚生労働科学研究費補助金(成育疾患克服等次世代育成基盤研究事業)平成23~24年度総合研究報告書, pp1-201, 2013.
2)Yamada H, Tairaku S, Morioka I, et al. Nationwide survey of maternal screening for mother-to-child infections in Japan. Congenit Anom (Kyoto). 54: 100-3, 2014.
3)Dunn D , Wallon M, Peyron F et al. Mother-to-child transmission of toxoplasmosis: risk estimates for clinical counselling. Lancet. 353: 1829-33, 1999.
4)Yamada H, Nishikawa A, Yamamoto T, et al. Prospective study of congenital tosoplasmosis screening with use of IgG avidity and multiplex nested PCR methods. J Clin Microbiol 49: 2552-6, 2011.
5)Gay-Andrieu F, Fricker-Hidalgo H, Sickinger E, Espern A, Brenier-Pinchart MP, Braun HB, et al. Comparative evaluation of the ARCHITECT Toxo IgG, IgM, and IgG Avidity assays for anti-Toxoplasma antibodies detection in pregnant women sera. Diagn Microbiol Infect Dis. 65: 279-87. 2009.
6)Yamada H, Tanimura K, Deguchi M, et al. A cohort study of maternal screening for congenital Toxoplasma gondii infection: 12 years' experience. J Infect Chemother 25: 427-30, 2019.
7)de Oliveira Azevedo CT, do Brasil PE, Guida L, Lopes Moreira ME. Performance of Polymerase Chain Reaction Analysis of the Amniotic Fluid of Pregnant Women for Diagnosis of Congenital Toxoplasmosis: A Systematic Review and Meta-Analysis. PLoS One. 11: e0149938. 2016.
8)Romand S, Wallon M, Franck J et al. Prenatal diagnosis using polymerase chain reaction on amniotic fluid for congenital toxoplasmosis. Obstet Gynecol. 97: 296-300, 2001.

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