CMV初感染が疑われる妊婦へのカウンセリングと対応指針
感染が疑われた妊婦に対しては、CMV抗体検査を行ったうえで、カウンセリングを慎重に行う。妊婦に対する胎児感染予防や胎児治療目的での免疫グロブリンやバラシクロビルの投与は臨床試験レベルであり、その効果は確定していない1-7)。何らかの理由でCMV抗体検査を行い、IgM陽性などによって妊娠中のCMV初感染が疑われた妊婦へのカウンセリングと対応指針を記す。
1) 日本でのCMV IgG、IgM陽性頻度 8-11)
- 妊婦のおよそ7割がIgG陽性。陽性者の4〜5%がIgM陽性で初感染が疑われる:全妊婦の3〜4%
その約3割がIgG avidity index低値(≦35〜45%※)で初感染が強く疑われる:全妊婦の1〜1.5% - 妊婦のおよそ3割がIgG陰性、その1.5%は妊娠後期に抗体陽性化で初感染が確定:全妊婦の約0.5%
※測定時期やアッセイ系によって、数値が異なる。
①と②により、妊娠中のCMV初感染が確定ないし強く疑われるのは:全妊婦の1.5〜2%
2) CMV IgM陽性で初感染が疑われる妊婦への対応
CMV IgG陽性、IgM陽性が判明し、妊娠中の初感染が疑われる妊婦に対して、以下のように説明し対応する。
- 妊娠中のCMV初感染の疑いがある。超音波断層法を行い、胎児・胎盤異常がないか調べる。超音波断層法で異常が認められた場合、高次施設に紹介する。高次施設では、IgG avidity測定や羊水出生前診断について説明を行う。
超音波断層法によって、脳室拡大、小頭症、頭蓋内石灰化、腹水、肝腫大、胎児発育不全などの所見があれば、先天性感染が存在する確率は60%と高い10)ので慎重に説明を行う。羊水検査によって先天性感染の有無が高い精度で診断できる。 - 超音波断層法で異常が認められない場合:IgM陽性者の約7割は妊娠中の本当の初感染ではなく、persistent IgMやキット感度などによる偽陽性である。IgG avidity測定(保険適用なし)を行い、低値(≦35〜45%; 測定時期による)であれば初感染の可能性が高い。仮に本当の初感染であっても6割は胎児に感染しないこと、そして現時点では胎児異常が認められないことをよく説明する。
超音波断層法で異常が認められない場合は、IgG avidity測定を行わずに経過を観察する選択肢もある。
3) CMV IgM陽性、IgG avidity低値で初感染が強く疑われる妊婦への対応
CMV IgG陽性、IgM陽性、IgG avidity index≦35〜45%が判明し、妊娠中の初感染が強く疑われる妊婦に対しては、以下のように説明し対応する。
- 超音波断層法で異常が認められた場合:高次施設に紹介する。
- 超音波断層法で異常が認められない場合:本当の初感染であっても6割は胎児に感染しない。4割は胎児に感染するが、現時点で胎児異常は認められない。無症候性の先天性感染児では、何らかの後遺症を発症するのは10〜15%であり、残りの85〜90%はほぼ正常に発達する。症候性ないし症状が出現した先天性感染児では抗ウイルス薬による治療を考慮する。
心配であれば羊水穿刺による羊水CMV DNA検査で先天性感染の有無がほぼ判定できる。ただし、妊娠22週未満やCMV感染後6週以内の羊水検査には偽陰性が多いことが知られているので注意する。
出生前診断の意義は以下である。
- CMV DNA陰性で、現状より安心して妊娠を継続できる。
- CMV DNA陽性で、高次施設へ紹介し、出生児の精査・診断や治療が受けられる。
4) IgG陰性が妊娠後期に陽性化し初感染が確定した妊婦への対応
3) に準じる。
CMV初感染予防のための妊婦カウンセリング
多くの妊婦はCMVについて、妊娠中の感染によって胎児に影響が出ることについて認識が乏しい12-14)。妊娠が診断されたら早期に感染予防法について説明する。症状、感染経路、児への影響を説明した上で、CMVを含んでいる可能性のある小児の唾液や尿との接触を妊娠中はなるべく避けるよう、また十分な手指衛生を心がけるように教育し啓発する(表1)。米国の報告では、子供(0〜5歳)の11%で唾液にCMVが排出されていた15)。米国Centers for Disease Control and Prevention (CDC)、American College of Obstetricians and Gynecologists (ACOG)、英国National Health Service (NHS)では、妊婦に対する教育と啓発を推奨している。
妊娠12週以降の母体初感染(抗体陰性者の陽性化)率は1〜2%とされるが、妊婦CMV抗体スクリーニングおよび抗体陰性者に対する感染予防教育と啓発によって、0.19%に低下したとの報告がある16)。
CMVを含んでいる可能性のある小児の唾液や尿との接触を妊娠中はなるべく避けるように説明する。
表1:CMV感染予防のための妊婦教育・啓発の内容
引用文献
1) Negishi H, et al. Intraperitoneal administration of cytomegalovirus hyperimmunoglobulin to the cytomegalovirus-infected fetus. J Perinatol. 1998; 18: 466-469.
2) Nigro G, et al. Passive immunization during pregnancy for congenital cytomegalovirus infection. N Engl J Med. 2005; 353: 1350-1362.
3) The Japanese Congenital Cytomegalovirus Infection Immunoglobulin Fetal Therapy Study Group. A trial of immunoglobulin fetal therapy for symptomatic congenital cytomegalovirus infection. J Reprod Immunol. 2012; 95: 73-79.
4) Tanimura K, et al. Immunoglobulin fetal therapy and neonatal therapy with antiviral drugs improve neurological outcome of infants with symptomatic congenital cytomegalovirus infection. J Reprod Immunol. 2021; 143: 103263.
5) Revello MG, et al. A randomized trial of hyperimmune globulin to prevent congenital cytomegalovirus. N Engl J Med. 2014; 370: 1316-1326.
6) Hughes BL, et al. A Trial of Hyperimmune Globulin to Prevent Congenital Cytomegalovirus Infection. N Engl J Med. 2021; 385: 436-444.
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9) Numazaki K, Fujkawa T. Prevalence of serum antibodies to cytomegalovirus in pregnant women in Sapporo, Japan. Int J Infect Dis. 2002; 6: 147-148.
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11) Ebina Y, et al. The IgG avidity value for the prediction of congenital cytomegalovirus infection in a prospective cohort study. J Perinat Med. 2014; 42: 755-759.
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16) Vauloup-Fellous C, et al. Does hygiene counseling have an impact on the rate of CMV primary infection during pregnancy? Results of a 3-year prospective study in a French hospital. J Clin Virol. 2009; 46 Suppl 4: S49-53.