国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)成育疾患克服等総合研究事業 ― BIRTHDAY

サイトメガロウイルス、トキソプラズマ等の母子感染の予防と診療に関する研究班

バルガンシクロビル治療の適正使用の手引き

バルガンシクロビル(バリキサ®)による治療は、その効果として、症候性先天性CMV感染児の聴覚や精神運動発達の改善または進行抑制が期待される1)。その一方、短期的な副作用として、バルガンシクロビルの臨床試験および活性代謝物であるガンシクロビルの投与例に、重篤な白血球減少、好中球減少、貧血、血小板減少の骨髄抑制や肝機能障害が認められている。長期的な懸念として、バルガンシクロビルの活性代謝物であるガンシクロビルを用いた動物実験の結果ではあるものの、精子形成機能障害、雌の妊孕性低下が認められている。同じく、動物実験で催奇形性、発がん性が認められている1)。また、バルガンシクロビルおよびガンシクロビルは、いずれも培養細胞を用いた試験で遺伝毒性が示されている。それゆえ、ヒトについても精子形成機能障害、女性の妊孕性低下、催奇形性、遺伝毒性および発がん性を示すおそれが考えられるので、本薬剤においては適正な使用が求められる。

AMED研究班
作成:森岡一朗(日本大学医学部 小児科学系 小児科学分野)
本内容は、AMED研究班会議資料(2022年12月時点)である。

症候性の定義

先天性CMV感染は、無症状のものから様々な症状を呈するものまで幅が広い。出生時に神経学的徴候(小頭症、水頭症・脳室拡大、脳室周囲石灰沈着・大脳皮質形成不全・白質障害、網脈絡膜炎、感音性難聴)もしくは、非神経学的徴候(胎児発育不全、肝脾腫、肝機能障害、出血斑、血小板減少、黄疸、肺炎)がみられるものが「症候性」である。一方、出生時に症状のない感染児は、「無症候性」である。治療を検討する上で、症候性および無症候性の鑑別のため、血算、生化学検査、脳画像検査(頭部超音波、MRI [またはCT] )、聴力検査(聴性脳幹反応)、眼底検査などの精査を行う。

治療対象

症候性感染児が治療の対象となり、無症候性感染児に治療適応はない。米国の臨床試験や我が国の医師主導治験における治療適応は、後障害を引き起こす可能性の高い中枢神経障害を呈する症候性先天性CMV感染症の患者である(小頭症、水頭症・脳室拡大、脳室周囲石灰沈着、大脳皮質形成不全・白質障害、網脈絡膜炎、聴性脳幹反応異常)2,3)。一方、海外のガイドラインや我が国のAMED研究班では、重症度で分類した治療適応を提案している4,5)。治療対象としては、「軽度:原疾患に伴う一過性の臨床症状や検査値異常」、「中等度:臨床症状や検査値異常を伴う活動性病変」、「重度:中枢神経障害(難聴や網脈絡膜炎を含む)」のうち、軽度を除いた中等度及び重度の症候性先天性CMV感染症患者が妥当である表1)。

表1:重症度の定義

治療開始時期

国際先天性CMV感染症学会のガイドラインでは、生後1か月以降にバルガンシクロビル治療の開始が妥当であることを示唆するランダム化比較試験のエビデンスはないこと4)、欧州小児感染症学会のガイドラインでは、生後28日以上経過した患者のバルガンシクロビルの治療効果については、ランダム化比較試験で検討されていないが、生後28日というカットオフ値もエビデンスに基づくものではないことが記載されている5)。米国の臨床試験では、投与開始時期は「治療開始時点で原則として生後30日以内」と定義されているが、該当時期を過ぎた場合でも主治医の判断で適応可能と併記されている。国内の医師主導治験においては、我が国の医療事情を鑑み、生後21日以内の尿からのCMV核酸検出で先天性CMV感染の確定診断がなされる。その後「症候性」の有無を調べる精査に一定の時間を要することから、生後2か月までの同意取得、その後4週間以内に治療開始と設定された3)。実際の治験では、治療開始時の日齢の中央値は35.5日、最小〜最大日齢は14日〜66日であった6)。また、投与開始時が生後0か月(日齢14〜28)と生後1,2か月(日齢31〜66)の2群に分け、投与6か月後の聴性脳幹反応(Auditory brainstem response, ABR)のbest ear assessment(両耳のうち成績の良い方の評価)及びtotal ear assessment(左右の耳すべての評価)は、両群間で有意な差はなく、聴覚への効果に差がないことが確認された(表26)以上より、バルガンシクロビル治療の開始時期は生後2か月以内が妥当と考えられる。

表2:聴力障害レベルのベースラインからの変化量(生後0か月と1,2か月の比較)

投与量・投与期間

1)症候性先天性CMV感染症を対象とした海外の非投与群対照ランダム化二重盲検試験で、バルガンシクロビルの活性代謝物であるガンシクロビル1回6mg/kgを1日2回、6週間の静脈内投与により聴力や精神発達の改善が認められた7,8)。2)ガンシクロビルの曝露量として、ガンシクロビル6mg/kg静脈内投与がバルガンシクロビル16mg/kg経口投与に相当した9) 。3)バルガンシクロビル1回16mg/kgを1日2回、6週間投与と6か月間投与のランダム化比較試験で、6週間投与よりも6か月間投与の方が聴力や精神発達の改善効果が高い傾向にあった2)。4)国内の医師主導治験でもバルガンシクロビル1回16mg/kgを1日2回、6か月間の経口投与での有効性及び安全性が確認された6)以上より、通常、聴覚や発達予後の改善を目的とした場合は、バルガンシクロビルの投与量・投与期間は、1回16mg/kgを1日2回、6か月間経口投与が推奨される。その一方、中枢神経障害(網脈絡膜炎、聴性脳幹反応異常を含む)がなく、CMV感染症の活動性病変(肝脾腫、点状出血、肺炎、肝機能異常,血小板減少、白血球減少、貧血等)の沈静化を目的とする場合は、主治医の判断により適宜、投与期間の短縮は考慮できる。

治療中の効果判定と副作用モニタリング

バルガンシクロビル治療開始後、多くの症例では、臨床所見(網脈絡膜炎、肝機能障害、血小板減少など)が改善するとともに、経時的に全血中CMV量が減少し、治療終了時まで継続されることが確認されている(図12,6)。同様の傾向を示すことは、血漿や尿においても確認されている6)。そのため、薬自身の効果判定は、全血または血漿中のCMV量の測定が推奨される(実際の具体的な測定の依頼については、Q&A #11を参照されたい)。血中CMV量の測定は、治療期間中、最低3時点(治療前、治療開始4-6週時点、治療終了時点)が必要である。治療開始4-6週時点に測定することで、血中CMV量は多くの症例で検出感度以下になっているので6)、臨床現場で治療効果の説明に使用できる。さらに、4時点(治療前、治療開始4-6週時点、治療開始3-4か月時点、治療終了時点)で測定することで、精緻な判定が可能と考えられる。
治療開始後に血中のウイルス量が減少傾向を示さない、あるいは増大傾向を示す場合や網脈絡膜炎、肝機能障害、血小板減少など臨床所見が改善しない場合には、①バルガンシクロビルの効果が原疾患の病勢をコントロールできない、②薬剤耐性ウイルスにより抗ウイルス効果が減弱していることが考えられる。この場合は、薬物血中濃度による確認も検討される(実際の具体的な測定の依頼については、Q&A #12,13を参照されたい)。
投与開始後に血球数の低下が始まるので、投与開始後から血球数の安定が確認されるまでは週1回、血球減少のリスクの高い状態では(白血球数、血小板数、ヘモグロビン値等が投与前から低値など)週2回以上の頻度で実施することが適当と考えられる。その後は、血液学的検査値の推移を考慮して、バルガンシクロビル投与中は適切な頻度で肝機能や腎機能を含めた血液検査を継続実施することが推奨される。特に、腎機能が低い程、減量や中止が必要となる好中球減少が発現するリスクが高まる可能性はあるため、腎機能障害を有する症候性先天性CMV感染症患者には骨髄抑制に関連した副作用に注意が必要と考えられる。そのため、国内外の医師主導治験においても、血清クレアチニンが1.5mg/dLを超える患者は、治療適応外となっている。しかしながら、治療の適応となる患者の中で腎機能障害を有する者は少ない。
国内の医師主導治験では、投与前、投与開始6週までは週1回、以降、投与開始6か月まで月1回の血液検査が行われた3)。臨床検査項目は、「血算、CRP、AST、ALT、LD、CK、TP、Alb、BUN、Cr、Na、K、Cl、Ca、P」であった(3-2 治験の概要 表2 観察・検査項目および実施スケジュールを参照)3)

CMV,サイトメガロウイルス(文献6より和訳して引用、一部改変)

図1:国内の医師主導治験における全血中CMV量の経時推移

減量または休薬(中断)

代表的な減量または休薬(中断)の基準を示す。
好中球:投与開始後に好中球数が500/mm3未満となった場合は、750/mm3以上となるまで休薬する。750/mm3以上まで回復した場合は通常用量で投与を再開可能とする。再び750/mm3未満となった場合は、用量を50%に減量する。減量した用量で500/mm3未満となった場合は、投与を中止とする2,3)。なお、国内の医師主導治験では、顆粒球コロニー形成刺激因子(granulocyte colony stimulating factor, G-CSF)製剤を使用する際には、好中球数が500/mm3未満となった場合で、感染所見がない場合は1週間休薬後も500/mm3未満であれば投与した。感染所見がある場合は休薬せずにG-CSFを投薬とした。ただし、安全性は症例によって異なるため、主治医の判断で、減量や休薬、G-CSFの投与を適宜行うことが重要である。
血小板:一般には、投与開始後に血小板数が50,000/mm3未満となった場合は、50,000/mm3以上となるまで休薬する。50,000/mm3以上に回復した場合は通常用量で再開する2,3)。その一方、血小板数の低下は原疾患によっても生じる(国内の医師主導治験においても血小板数25,000 /mm3未満の患者が治療適応外となっている3))。25,000〜50,000/mm3では投薬を行うことにより、血小板数が回復する症例も存在する。なお、血小板輸血は、血小板数が50,000/mm3未満で症状などを踏まえ、主治医の判断で行う。
ヘモグロビン:投与開始後にヘモグロビン値が8 g/dL未満となった場合は、8g/dL以上となるまで休薬する。8g/dL以上に回復した場合は通常用量で再開する2,3)。赤血球輸血はヘモグロビン値が8g/dL未満となった場合、主治医の判断で考慮する。
肝機能:ASTまたはALTの値がベースラインの10倍以上あるいは500U/L以上になった場合は、ベースラインの10倍未満あるいは500U/L未満に低下するまで休薬する。ベースラインの10倍未満あるいは500U/L未満に回復した場合は、通常用量で再開する2,3)。なお、溶血した場合はASTではなくALTを採用する。再びベースラインの10倍以上あるいは500U/L以上になった場合は投与を中止する。
バルガンシクロビルの投与中に、以上に該当する場合は、減量または休薬(中断)を行う。特に血球減少については、投与の減量/休薬やG-CSF製剤投与、輸血等による適切な処置を講じ、慎重な対応が必要である。休薬期間が連続2か月(60日)を超えた場合は投与を中止とする。

制限すべき併用薬・併用療法

新生児や乳児に頻用される薬剤の中で、特に制限すべきものはない。バルガンシクロビルとの相互作用が認められ、併用時に注意すべき薬剤は、ジドブジン、ジダノシン、イミペネム・シラスタチンナトリウム、骨髄抑制作用のある薬剤および腎機能障害作用のある薬剤(ジアフェニルスルホン、ビンクリスチン硫酸塩、ビンブラスチン硫酸塩、ドキソルビシン塩酸塩、ヒドロキシカルバミド、フルシトシン、アムホテリシンB、ペンタミジンイセチオン酸塩、核酸誘導体等)、スルファメトキサゾール・トリメトプリム、シクロスポリン、プロベネシド、ミコフェノール酸モフェチルがある10)

治療後のフォローアップ

6か月間のバルガンシクロビル治療終了後も本薬剤使用患者のフォローアップが必要である。たとえ治療を行っても、症候性先天性CMV感染症は、精神運動発達遅延、聴覚・視覚障害、てんかん、神経発達症群(自閉スペクトラム症や注意欠如・多動症など)の神経学的後遺症のハイリスクである1,11,12)。また、遅発性・進行性聴力障害を引き起こすことは常に念頭に置いておく必要がある。
治療後の評価項目として、血液検査(血算や生化学検査)で異常がないことの確認と成長や精神運動発達評価、聴力評価が必須である。網脈絡膜炎や頭部画像異常所見を認めていた症例では、適宜、眼科診察、頭部MRIなどの画像検査が必要となる。国内の医師主導治験終了後に行われている観察研究でのフォローアップ時期と評価項目を表3に示す。
動物を用いた基礎研究において、高用量のガンシクロビル投与は可逆性の精子・精巣障害と、発がんリスクを生じると報告されているが1)、ヒトにおける長期予後データはない。

表3:医師主導治験終了後の観察研究でのフォローアップ時期と評価項目

引用文献

1) Nagano N, et al. Congenital cytomegalovirus infection: epidemiology, prediction, diagnosis, and emerging treatment options for symptomatic infants. Expert Opin Orphan Drugs 2020; 8: 1-9.
2) Kimberlin DW, et al. Valganciclovir for symptomatic congenital cytomegalovirus disease. N Engl J Med. 2015; 372: 933-943.
3) Morioka I, et al: Efficacy and safety of valganciclovir in patients with symptomatic congenital cytomegalovirus disease: Study Protocol Clinical Trial (SPIRIT Compliant). Medicine. 2020; 99: e19765.
4) Rawlinson WD, et al. Congenital cytomegalovirus infection in pregnancy and the neonate: consensus recommendations for prevention, diagnosis, and therapy. Lancet Infect Dis. 2017;17:e177-188.
5) Luck SE, et al. Congenital cytomegalovirus - a European expert consensus statement on diagnosis and management. Pediatr Infect Dis J. 2017;36:1205-1213.
6) Morioka I, et al. Oral valganciclovir therapy in infants aged ≤2 months with congenital cytomegalovirus disease: A multicenter, single-arm, open-label clinical trial in Japan. J Clin Med. 2022; 11: 3582.
7) Kimberlin DW, et al. Effect of ganciclovir therapy on hearing in symptomatic congenital cytomegalovirus disease involving the central nervous system: a randomized, controlled trial. J Pediatr. 2003; 143: 16-25.
8) Oliver AE, et al. Neurodevelopmental outcomes following ganciclovir therapy in symptomatic congenital cytomegalovirus infections involving the central nervous system. J Clin Virol. 2009; 46S: S22-6.
9) Kimberlin DW, et al. Pharmacokinetic and pharmacodynamic assessment of oral valganciclovir in the treatment of symptomatic congenital cytomegalovirus disease. J Infect Dis. 2008; 197: 836-45.
10) バリキサ®錠450mg、バリキサ®ドライシロップ5000mg添付文書 2023年3月改訂(第3版 効能変更)https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/ResultDataSetPDF/400315_6250025F1026_1_19
11) Koyano S, et al. Congenital cytomegalovirus in Japan: more than 2 year follow up of infected newborns. Pediatr Int. 2018; 60: 57–62.
12) Fukushima S, et al. Prediction of poor neurological development in patients with symptomatic congenital cytomegalovirus diseases after oral valganciclovir treatment. Brain Dev. 2019; 41: 743-750.

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