国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)成育疾患克服等総合研究事業 ― BIRTHDAY

サイトメガロウイルス、トキソプラズマ等の母子感染の予防と診療に関する研究班

バルガンシクロビル治療に関するQ&A

Q1.バルガンシクロビルドライシロップが皮膚や粘膜に触れた場合はどうしたらいいでしょうか?

本剤は、催奇形性および発がん性のおそれがあるので、皮膚や粘膜に直接触れないようにします。もし、触れた場合は石鹸と水で十分に洗浄し、眼に入った場合も水で十分に洗浄を行います。

Q2.バルガンシクロビルドライシロップ服用時に嘔吐した場合はどうすればいいでしょうか?

服用時に嘔吐した場合でも、過量投与になることを避けるため、再投与しません。次の投与時間になってから通常用量で投与します。

Q3.聴覚スクリーニング検査でreferでした。どのような手順で進めればいいでしょうか?また、それは、片側referの結果でも行うべきでしょうか?

出生した産科施設等で生後21日までに新生児の尿CMV核酸検査を保険適用で行い、耳鼻咽喉科に聴覚の精密検査を依頼してください。尿CMV核酸検査は、受託検査会社で行うことができます。そして、尿CMV核酸検査が陽性となった場合には、先天性CMV感染症の精査を行える小児科に紹介依頼し、精密検査を行います。片側referでも同様に行います。

Q4.上衣下嚢胞や脳室周囲嚢胞などの頭蓋内嚢胞病変も中枢神経障害に入りますか?

頭部画像検査の異常所見として、中枢神経障害に入る可能性があります。超音波検査だけしか行われていない場合には、頭部MRIによる精査を行います。そのほか、血液検査、眼底検査、聴力検査でも評価していただき、症候性の有無を十分検討してください。判断に困るようでしたら、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)成育疾患克服等総合研究事業–BIRTHDAYサイトメガロウイルス、トキソプラズマ等の母子感染の予防と診療に関する研究班のホームページ(http://cmvtoxo.umin.jp)の小児科担当医師に相談をしてください。

Q5.Small-for-gestational age (SGA)や低出生体重児だけでも治療適応はあるでしょうか?

SGAや低出生体重単独では、治療適応とはならないと考えられます。SGAや低出生体重を起こす産科異常がないか検討してください。一方、血液検査、眼底検査、聴力検査、頭部画像検査で評価していただき、症候性の有無を十分検討してください。判断に困るようでしたら、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)成育疾患克服等総合研究事業–BIRTHDAYサイトメガロウイルス、トキソプラズマ等の母子感染の予防と診療に関する研究班のホームページ(http://cmvtoxo.umin.jp)の小児科担当医師に相談をしてください。

Q6.無症候性先天性CMV感染児は治療適応があるでしょうか?

無症候性先天性CMV感染児には治療適応はありません。

Q7.早産児で出生後、症候性先天性CMV感染症と診断されました。治療はいつから開始したらいいでしょうか?

在胎32週以上、治療開始時の体重は1,800g以上で、生後2か月までの開始が目安になります。これは、国内外の臨床試験のエントリークライテリアに基づいています1,2)。本治療の対象は「症候性」先天性CMV感染症患者であることが必須です。国外の臨床試験では生後30日以内の治療開始でのエビデンスが蓄積されていますが1,3,4)、我が国の医療事情を鑑み、国内の医師主導治験では、生後2か月までの治療開始で行われました2,5)

Q8.頭部画像検査は何がいいでしょうか?早産児の場合、治療開始前に移動ができない場合はどうしたらいいでしょうか?

頭部画像検査には、超音波、CT、MRIがあります。いずれも一長一短あります。頭部MRIが最も情報を多く獲得できますので、超音波またはCT(放射線被曝があり避ける傾向にあります)を行っても頭部MRIの精査をすることをお薦めします。移動が難しい場合には、治療開始後、状態が安定した時期に行うことでも問題はないと思います。

Q9.治療開始前に髄液検査は必要でしょうか?

髄液検査は、特に治療適応にも影響せず必須ではありません。また、髄液の結果で用法・用量が変わることもありませんので、主治医が臨床上の必要性によって判断でよいと考えられます。

Q10.バルガンシクロビル投与開始後、副作用の確認はどのようにすればいいでしょうか?

投与開始後に血球数の低下が始まるので、投与開始後は週1回、血球減少のリスクの高い状態では(白血球数、血小板数、ヘモグロビン値等が投与前から低値など)週2回以上の頻度で実施することが適当と考えられます。血液学的検査値の推移を考慮して、バルガンシクロビル投与中は適切な頻度で肝機能や腎機能を含めた血液検査を継続実施することが推奨されます。国内の医師主導治験では、投与前、投与開始6週までは週1回、以降、投与開始6か月まで月1回の血液検査を行いました2)

Q11.バルガンシクロビル投与中に血中CMV量の測定は必要でしょうか?いつ測定すればいいでしょうか?

全血または血漿中のCMV量の測定が推奨されます。血中CMV量の測定は、治療期間中、最低3時点(治療前、治療開始4-6週時点、治療終了時点)が必要と考えられます。しかし、現時点で保険適用がありませんので、全血中CMV量の測定は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)成育疾患克服等総合研究事業–BIRTHDAYサイトメガロウイルス、トキソプラズマ等の母子感染の予防と診療に関する研究班のホームページ(http://cmvtoxo.umin.jp)で、無償で中央診断を申し込むことができます。または、現在、自費になりますが、血漿CMV量を受託検査会社(SRLなど)も可能と考えます。尿中CMV量でも評価は可能と考えますが、保険適用はありません。

Q12.バルガンシクロビル投与中にガンシクロビル血中濃度の測定は必要でしょうか?

血中濃度は普通にウイルス量が減っている場合は必須でありません。ウイルス量が減らない場合や副作用が重度の場合に血中濃度の確認で必要と考えてください。国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)成育疾患克服等総合研究事業–BIRTHDAYサイトメガロウイルス、トキソプラズマ等の母子感染の予防と診療に関する研究班のホームページ(http://cmvtoxo.umin.jp)からご相談ください。

Q13.血中CMV量が減少しない場合には、バルガンシクロビルを増量する必要はあるでしょうか?

治療開始後に血中のCMV量が減少傾向を示さない、あるいは増大傾向を示す場合や網脈絡膜炎、肝機能障害、血小板減少など臨床所見が改善しない場合には、①バルガンシクロビルの効果が原疾患の病勢をコントロールできない、②薬剤耐性ウイルスにより抗ウイルス効果が減弱していることが考えられます。この場合は、薬物血中濃度の確認後、バルガンシクロビルの増量やガンシクロビル静注への変更も検討されます。ただし、添付文書上には記載はなく、適用外の使用法となります。国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)成育疾患克服等総合研究事業–BIRTHDAYサイトメガロウイルス、トキソプラズマ等の母子感染の予防と診療に関する研究班のホームページ(http://cmvtoxo.umin.jp)からご相談ください。

Q14.バルガンシクロビルの投薬開始後、好中球減少で休薬しました。6か月間の治療期間に休薬期間も含まれるのでしょうか?

休薬期間を除いて、6か月間投与することが望まれます。

Q15.治療開始後に好中球減少を発症しました。顆粒球コロニー形成刺激因子(G-CSF)製剤は使用していいのでしょうか?また、どのような使い方をすればいいでしょうか?

G-CSF製剤は使用できます。国内の医師主導治験ではG-CSF製剤を使用する際には、好中球数が500/mm3未満となった場合で、感染所見がない場合は1週間休薬後も500/mm3未満であれば投与としました。好中球減少の発現には、個人差がありますので、個々の症例に応じた対応が必要になります。

Q16.治療開始後に好中球減少を発症し、6か月間の治療を完遂できませんでした。効果はどうなるでしょうか?

6週投与群と6か月投与群の比較した海外の臨床試験の結果では、聴力悪化の抑制や発達評価において、投与12か月後まで概ね同程度の改善効果が認められました2)。国内の医師主導治験においても、聴性脳幹反応検査に基づく聴力障害レベルのベースラインからの変化量は、6週投与時点と6か月投与時点では有意な差はありませんでした(表15)。短期的な効果は変わらない一方、海外の臨床試験の結果は、投与12か月後及び投与24か月後の聴力悪化の抑制及び投与24か月後の発達評価において、6週投与群と比較して、6か月投与群の方が統計学的に有意に改善効果を認めています2)。この結果から、症候性先天性CMV感染症患者の長期予後を改善するためには、投与期間は長い方が良いことが示唆されます。

文献5)より引用し和訳

表1:聴力障害レベルのベースラインからの変化量(投与6週間時点と6か月時点の比較)

Q17.治療終了後に血中CMV量のリバウンドが生じています。どうすればいいでしょうか?

国内外で示された有効性は、血中CMV量のリバウンドがあったにも関わらず、認められています。治療後は、免疫系の発達とともにウイルスの制御が可能となり、CMV量のリバウンドは自然経過で終息します2)。欧州小児感染症学会のガイドラインでは、治療終了後のCMVのリバウンドはよく知られているが、長期予後との関連は証明されておらず、その意義は不明であるとされています4)。肝機能障害や血球減少、網脈絡膜炎の再燃などの臨床所見がなければ、経過をみることになります。

Q18.バルガンシクロビル投与中に母乳をあげていいでしょうか?母乳中のCMV検査は必要でしょうか?

母親はCMV感染がありますので、母乳中からCMVの排泄はあります。しかし、必ずしも母乳栄養を止める必要はありません。母乳栄養をしても治療を行えば、通常、児の体内のウイルス量は減少します。そのため、母乳中のCMV検査は必ずしも必須ではありません。児の栄養方法については、ご家族とよく相談の上、決定してください。

Q19.経母乳感染もありえるので直接授乳はやはりやめておいた方が良いでしょうか?凍結母乳の方がいいでしょうか?

一般にCMV感染は乳児期に感染しても問題とならないのはよく知られています(経母乳感染で問題になるのは早産児です)。母親の母乳からCMVが検出されるのは、生後1週から始まり、生後4~8週でピークを迎え、生後10~12週で消失すると報告されています(そのうち母乳からは出なくなります)6)。正期産の先天性CMV児の場合、母乳を冷凍したり、一律に人工乳に変更することは、必ずしも必要ないと医学的には考えられます。しかしながら、児に先天性CMV感染が生じていて、さらに抗CMV薬でウイルスを減少させているところに、CMV含有母乳を飲ませるのは気が引けるという母親の心情もあります。児の栄養方法については、ご家族とよく相談の上、決定してください。

Q20.治療後の聴覚のフォローアップは必要でしょうか?また、検査法はABRではなく、他の検査でもいいでしょうか?

先天性CMV感染症は、進行性・遅発性難聴という特徴があり、聴覚のフォローアップは必須になります。耳鼻咽喉科と連携の上、フォローアップしていくことが重要となります。聴覚のフォローアップについては、Part2 基礎と臨床 6.耳鼻科診療の実際の項も参照ください。

Q21.先天性CMV感染児のおむつの処理は特別な配慮が必要でしょうか?

CMVは、尿中から排泄されます。一般に市中で感染し、乳児期以降に感染しても症状を呈さないことが多いです。また、手指衛生や手袋の着用などの標準予防策で十分コントロールできます。従いまして、通常通りで問題ありません。ただ、妊娠を希望している女性や妊婦には、CMVを含んでいる可能性のある小児の唾液や尿との接触をなるべく避けるように教育・ 啓発する必要があります。

Q22.バルガンシクロビル投与中や治療終了後に保育園などの集団生活は可能でしょうか?

好中球減少がない場合は、通常通り集団生活は可能です。好中球減少時は免疫が抑制され、個々の状況により判断する必要があり、主治医として判断してください。逆に、CMVは、一般に市中で感染し、乳児期以降に感染しても症状を呈さないことが多いです。手指衛生や手袋の着用などの標準予防策で十分コントロールできます。そのため、先天性CMV感染児の入園を拒否したり、隔離したりするようなことは不要です。

Q23.バルガンシクロビル投与中にワクチン接種してもいいでしょうか?

一般に通常通り行います。免疫不全症でウイルスなどを排除できず、生ワクチン接種が問題になるのは、T細胞(細胞性免疫)の低下です。特異抗体の産生はT細胞とB細胞の相互作用によって起こりますので、白血球の低下の種類を確認しましょう。一般に好中球減少では、生ワクチン、不活化ワクチンともに問題になりません。投薬中に行う生ワクチンは、ロタウイルスワクチンとBCGがあります。標準的な接種時期や推奨接種時期を確認しながら、接種を進めてください。

AMED研究班
作成:森岡一朗(日本大学医学部 小児科学系 小児科学分野)
本内容は、AMED研究班会議資料(2022年12月時点)である。

引用文献

1) Kimberlin DW, et al. Valganciclovir for symptomatic congenital cytomegalovirus disease. N Engl J Med. 2015; 372: 933-943.
2) Morioka I, et al: Efficacy and safety of valganciclovir in patients with symptomatic congenital cytomegalovirus disease: Study Protocol Clinical Trial (SPIRIT Compliant). Medicine. 2020; 99: e19765.
3) Rawlinson WD, et al. Congenital cytomegalovirus infection in pregnancy and the neonate: consensus recommendations for prevention, diagnosis, and therapy. Lancet Infect Dis. 2017;17:e177-188.
4) Luck SE, et al. Congenital cytomegalovirus - a European expert consensus statement on diagnosis and management. Pediatr Infect Dis J. 2017;36:1205-1213.
5) Morioka I, et al. Oral valganciclovir therapy in infants aged ≤2 months with congenital cytomegalovirus disease: A multicenter, single-arm, open-label clinical trial in Japan. J Clin Med. 2022; 11: 3582.
6) Hayashi S, et al. Transmission of cytomegalovirus via breast milk in extremely premature infants. J Perinatol. 2011; 31: 440-445.

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