国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)成育疾患克服等総合研究事業 ― BIRTHDAY

サイトメガロウイルス、トキソプラズマ等の母子感染の予防と診療に関する研究班

先天性CMV感染症の治療

従来、症候性の先天性CMV感染では出生時には症状がすでに固定されており、出生後の治療には効果がないと考えられていた。2003年にKimberlinらが症候性の先天性感染児を対象とした無作為二重盲検法のガンシクロビル(GCV)静注6週間治療によって、難聴の改善効果を初めて報告1)して以来、抗ウイルス薬治療が行われるようになってきた。治療期間については、2015年にKimberlinらが米国で症候性先天性CMV感染症に対して6カ月間もしくは6週間のバルガンシクロビル(VGCV)治療のランダム化比較試験を行い、6カ月間の治療のほうが、長期的に聴覚と神経学的予後をさらに改善すると報告している2)。米国小児科学会Red Bookでは、VGCVの6カ月間の治療が推奨されている。
GCVの副作用として骨髄抑制(特に好中球減少)の他、動物実験で催奇形性、精子形成の低下、発癌性が報告されている。重度の好中球減少(500/μL未満)の場合は、顆粒球コロニー刺激因子または顆粒球マクロファージコロニー刺激因子を使った骨髄刺激ないし薬物投与の中断が必要となる。比較的まれな有害事象として、発疹、発熱、悪心、嘔吐、腎障害や肝障害がある。
出生時から何らかの症状を有する症候性先天性CMV感染症では、神経学的後障害の発症リスクが高い。我々は、後障害を引き起こす可能性の高い中枢神経障害を呈する症候性先天性CMV感染症を対象としたVGCV経口治療の第III相多施設共同非盲検単群医師主導治験を、2020年2月から行った3-7)。本治験により、生後2カ月以内の症候性先天性CMV感染症児に対する経口VGCV治療は全血中および尿中CMV量を減少させ、難聴への有効性を示すことができた。安全性では好中球減少が最も注意を必要とすることを示した3-7)世界で初めて、我が国で2023年3月27日にVGCVの症候性先天性CMV感染症への薬事承認が得られ、保険適用となった3,5)

経口VGCV治療の適正使用3,5)

VGCV治療は、その効果として症候性先天性CMV感染児の聴覚や精神運動発達の改善または進行抑制が期待できる。その一方、短期的な副作用として、重篤な白血球減少、好中球減少、貧血、血小板減少の骨髄抑制や肝機能障害が認められている。長期的な懸念として、VGCVの活性代謝物であるガンシクロビルを用いた動物実験であるものの、精子形成機能障害、雌の妊孕性低下が認められている。同じく、動物実験で催奇形性、発がん性が認められている。また、VGCVは培養細胞を用いた試験で遺伝毒性が示されている。そのため、本薬剤においては適正な使用が求められる3,5)

  • 症候性の定義:出生時に神経学的徴候(小頭症、水頭症・脳室拡大、脳室周辺石灰沈着・大脳皮質形成不全・白質障害、網脈絡膜炎、感音性難聴)もしくは、非神経学的徴候(胎児発育不全、肝脾腫、肝機能障害、出血斑、血小板減少、黄疸、肺炎)がみられるものが「症候性」である。一方、出生時に症状のない感染児は、「無症候性」である。
  • 治療対象:症候性感染症児が治療の対象となり、無症候性感染児に治療適応はない。また、症候性感染症児の中でも、「軽度:原疾患に伴う一過性の臨床症状や検査値異常」、「中等度:臨床症状や検査値異常を伴う活動性病変」、「重度:中枢神経障害(難聴や網脈絡膜炎を含む)」のうち、軽度を除いた中等度及び重度の症候性先天性CMV感染症患者が妥当である。
  • 治療開始時期:VGCV治療の開始時期は生後2カ月以内が考えられる。
  • 投与量・投与期間:通常、聴覚や発達予後の改善を目的とした場合は、VGCVの投与量・投与期間は、1回16mg/kgを1日2回、6カ月間経口投与が推奨される。その一方、中枢神経障害(網脈絡膜炎、聴性脳幹反応異常を含む)がなく、CMV感染症の活動性病変(肝脾腫、点状出血、肺炎、肝機能異常、血小板減少、白血球減少、貧血など)の沈静化を目的とする場合は、主治医の判断により適宜、投与期間の短縮は考慮できる。
  • 治療中の効果判定と副作用モニタリング:全血または血漿中のCMV量の測定が推奨される。血中CMV量の測定は、治療期間中、最低3時点(治療前、治療開始4-6週時点、治療終了時点)が必要である。投与開始後から血球数の安定が確認されるまでは週1回、血球減少のリスクの高い状態では(白血球数、血小板数、ヘモグロビン値などが投与前から低値など)週2回以上の頻度で実施することが適当と考えられる。

引用文献

1) Kimberlin DW, et al. Effect of ganciclovir therapy on hearing in symptomatic congenital cytomegalovirus disease involving the central nervous system: a randomized, controlled trial. J Pediatr. 2003; 143: 16-25.
2) Kimberlin DW, et al. Valganciclovir for symptomatic congenital cytomegalovirus disease. N Engl J Med. 2015; 372: 933-943.
3) 国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)成育疾患克服等総合研究事業–BIRTHDAY サイトメガロウイルス,トキソプラズマ等の母子感染の予防と診療に関する研究班ホームページ. http://cmvtoxo.umin.jp
4) 森岡一朗, 他. 新生児尿による先天性サイトメガロウイルス感染スクリーニング. 日本マススクリーニング学会誌. 2023; 33: 19-30.
5) 国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)成育疾患克服等総合研究事業–BIRTHDAY. 先天性サイトメガロウイルス感染症診療ガイドライン2023. 診断と治療社(2023年10月16日発行)
6) Morioka I, et al. Efficacy and safety of valganciclovir in patients with symptomatic congenital cytomegalovirus disease: Study Protocol Clinical Trial (SPIRIT Compliant). Medicine. 2020; 99: e19765.
7) Morioka I, et al. Oral valganciclovir therapy in infants aged ≤2 months with congenital cytomegalovirus disease: A multicenter, single-arm, open-label clinical trial in Japan. J Clin Med. 2022; 11: 3582.

ページトップへ戻る